「……よー来てくれた」
「ど、どうしたのはやて。そんな恐い顔して」
「もしかして、レリックについて何かあったの?」
丸いテーブルに丁度三人、均等に分かれるように座る三人の少女。
一人は機動六課部隊長、八神はやて。両の手を組んで神妙な面持ちで前に座る二人を見ている。
そしてその様子を見てオロオロしているのが、フェイト・T・ハラオウン執務官。
真剣な表情で見つめ返すのが高町なのは教導官だ。
一呼吸の間をおいて、はやてはゆっくりと口を開く。
「最近思うんやけど……」
「「う、うん」」
硬い声に、二人の緊張は更に高まっていく。
空気が張り詰める、そんな感覚。
その中で、はやては次の言葉を告げた。
「私らって、ええ加減彼氏とかつくった方がええんちゃうかなぁ……?」
Blazing Souls ?
結婚談義
「――は?」
「――い?」
「いや、私らもう十九歳やろ? やのに未だに彼氏の一人もできんのは、これちょいヤバイやないかなあと」
………
……
…
「えと…はやてちゃん?」
「もしかして、私達を呼び出したのってそれを言う為?」
「? そやけど?」
一体何を、と言いたげなはやてに、なのはとフェイトは揃って顔を合わせ、溜息をついた。
そもそも重要な内容なら、隊舎の食堂で行うはずが無い。
そのことに気付かなかった自分たちが間抜けだったのか、それとも未だ真剣な表情のはやてが悪いのか。
ともあれ、議題はそのこと、かつ逃げようとすれば引っ掴まれて連れ戻されそうなので、二人は話を続けることにした。
表情を苦笑に変えて。
「なのはちゃんはユーノ君がおるからなあ」
「えっええ? 別にユーノ君とはそんなんじゃ」
「てゆーてるけどどう思う、フェイトちゃん?」
「私に言われても困るんだけど……。どうなの?」
「どうなのって…私とユーノ君は幼馴染ってだけで、恋人とかそういうのじゃないかな」
哀れ司書長。
「フェイトちゃんはぁ?」
「私も、今のところそういう人はいないかな? 仕事も忙しいし」
「うーん……」
二人の微妙につれない言葉にも負けず、はやては一人頭を抱える。
そうした表情や仕草が周囲の男達の視線を集めていたりもするのだが、現在進行形で恋に恋する悩みを展開中の部隊長は気付いていなようだ。
「なのはちゃんもフェイトちゃんも、容姿性格ともに問題なし。むしろ満点や。ただ二人とも若手のエースやからなあ。人気ありすぎて近寄りづらいんかな」
問題は…と神妙な面持ちではやては続ける。
「私ってこの年で部隊長。自分で言うのもなんやけどキャリア組やし、やっぱこう…そうゆう女は男は嫌いなんやろうか……」
自分で自分の首を絞め、溜息をつくはやて。
心なしか目に生気が失われ始めている。
十年来の親友が目が死んでるのを見て、なのはとフェイトは慌ててフォローに回った。
「だ、大丈夫だよ! はやて十分可愛いし!」
「そ、そうだよ! きっと守護騎士の人たちもいるし、それで何となく近づきにくいんじゃないかな?」
「……シグナムとかヴィータ?」
「うん。だって、はやてちゃんと恋人になるってことは、家族の皆にも認めてもらわなきゃってことだし」
自分で言っておいてなんだが、これは案外的を得ているのではないかとなのはは思った。
はやては魅力的だし、人望も厚い。むしろもっと色恋の話が多くてもいいはずなのである。
だが、彼女の周りには五人の守護騎士が控えている。
烈火の将・シグナム。鉄槌の騎士・ヴィータ。湖の騎士・シャマル。盾の守護獣・ザフィーラ。そして祝福の風・リーンフォース。
一分どころか一厘の隙すら見当たらないラインナップ。
この壁を越える男など、そうはいないだろう。
「むぅ、それは考えたことなかったな。なるほど、皆が納得する男かぁ……」
「……いるかな?」
「いる、んじゃないかな。時空単位で探せば……」
もの凄くハードル高そうだなあ、とフェイトが思案していると、突然はやてが立ち上がった。
それに驚き目を開いて、フェイトははやてに問いかける。
「は、はやて? どうした――」
「ちょお聞いてくる!」
シュタ! と音が聞こえてきそうな敬礼を見せて、はやては早足で食堂から出て行った。
完全に姿が見えなくなって数秒。
取り残されたなのはとフェイトは、呆然とした表情で、再び顔を見合わせる。
「取り敢えず、コーヒーでも飲む?」
「――そうしよっか」
∮ ∮ ∮
●ケース:1
「主に相応しい男ですか?」
「そや。どんな人やったらシグナムはおーけーする?」
自室でレヴァンティンの手入れをしていると、やってきた主。
突然の来訪に突然の質問で、シグナムは戸惑いを見せる。
だが、主の真摯な表情を見て、こちらも真剣に答えるべきだとシグナムは思案した。
己の主に対して、また他者に対して、烈火の将はいつも真面目なのだ。
そういう人間こそ一番気疲れが多いわけだが。
「そうですね。――私より強い男、でしょうか」
「シグナムより……」
「はい。やはり主の伴侶になる以上、私以上に強く。そして何者からも主はやてを守るほどでなくては」
「いや、婿にまで飛躍せんでもええねんけどな」
いきなりオーバーSランク級という、富士山レベルのハードルが用意されてしまった。
はやての知っている範囲で、そのような人物は片手で数えるほどしかいない。しかも一人は既婚者だ。
これは、初撃で苦しい展開である。
「そうかぁ…ありがとな、シグナム」
「はあ……。大丈夫ですか? 主はやて」
「大丈夫。ちょう挫けかけただけやから」
何か悪いことでもしただろうか。
背中を曲げて歩く主に、シグナムは余計な心配をすることになってしまった。
生真面目なだけに不憫である。
●ケース2
「そうですねえ……」
二番手シャマルは顎に手を当てて考える。
最初が厳しかったので、二番手はあまり要求の高そうにない彼女を選んだのだ。
何度か頷いた後、結論に至ったのかシャマルは笑みをみせた。
「はやてちゃんが決めたっていう方なら、私はどんな人でもいいですよ」
「やくざの息子とかでも?」
「さすがにそれは考えちゃいますけど……」
大事なのは、本人達の気持ちですから。そう締めくくったシャマルに、はやては半ば感動すら覚える。
これだ。これが求めていた答えなのだ。
……そう思うと最後に聞いたほうが良かっただろうか。
「ありがとシャマル。もうちょい頑張ってみるわ」
「はい、頑張ってくださいね。――ところで何を?」
来たときより軽やかになった足取りを見て、シャマルは首をかしげる。
……ま、まさか!?
「はやてちゃんに、やくざの息子の彼氏さんが!?」
見当違いだった。
●ケース3
「アイス驕ってくれるやつがいいな」
「それはちょい軽すぎやと私は思うんやけど……」
三番手は鉄槌の騎士。
なのだが質問に即答、かつアレな内容にはやては思わず苦笑した。
「っても、想像つかねえもん」
これはどういう意味だろうか。
だが、確かに自分が今まで特定の男性と付き合ったことが無いのは事実。
それなのにどんな男性ならいいかと聞かれても、返事に窮するのだろう。
回答にも質問にも困ったところで、はやては一つ閃いた。
「――じゃあ、例えば誰やったら、一緒に暮らしてもええなーって思う?」
彼氏=一緒に暮らすでもないが、上手くいけば実際そうなるのだ。
これは中々いい質問ではないだろうか。
問われたヴィータは、記憶にある男性陣を思い浮かべているのだろう。
何もない上を見上げながら、腕を組んで悩んでいる。
「そうだなあ……例えば」
「例えば?」
●ケース4
「――てなわけやねんけど、ザフィーラはどないや?」
「主に相応しい男ですか」
今度は獣形態の守護獣。
現状一番条件が苦しいのはシグナムなわけだが、彼はどのように思っているのだろうか。
「……私より強い男でしょうか」
「それ既出。オリジナリティーないとドンドン出番無くなんで」
「………」
その晩海辺に向けて「ておらー!」と叫ぶ犬を目撃した人がいたそうだが、全力で無視したらしい。
ちょっと目元とか潤んでたけど、それでも無視。
触らぬ犬にたたりなし。
「で、では。主をしっかりと支える男でしょうか」
「支える……」
「主は強い人です。であれば一人で戦うことも、生きることも出来ましょう。ですがそれでも、主の背中を支える、主のように強い男こそ共にいるにはいいかと」
オーバーSの特殊技能持ち。更にはキャリア組で、この年で二等陸佐という階級まで所持している。
これだけ見れば、八神はやては完璧に見えるだろう。
だがそれでも、それ以前にはやては一人の少女なのだ。
それを理解し、支え、共にいれる人こそ――
「私は主に相応しいと思います」
そう締めくくって、ザフィーラははやてを見る。
そんな男がいるのかは分からない。だが、いればそれこそ祝福しよう。
その意思を、瞳に込めて。
「おっけー了解や。ほんなら、それも込みで考えてみる」
「……ところで主。いきなり何故このような質問を?」
「乙女の悩みやからなるべく触れんといて」
「は、はあ……」
かくして守護獣の心に傷を残して、はやては次の場所へと赴いた。
●ケース5
「お。おったおった」
部隊長室の脇。自分の机と直角に置かれたデスクに、はやての探していた人物がいた。
リインフォースⅡ。彼女のユニゾンパートナーにして、八神家の末っ子である。
だがリインのデスクは、はやてに平行した、小さなものである。
ではそれは誰の机かというと。
「仲ええなあ、二人とも」
相沢祐一、その人である。
あちらこちらに資料のディスプレイを浮かべたまま、机に突っ伏している黒髪の青年。
青い瞳を今は閉じ、体をゆっくりと上下させ幸せそうに眠っている。
リインはその彼の頭の上で、同じようにしてスヤスヤと眠っていた。
はやてはその情景に苦笑し、ゆっくりと彼の耳元まで接近し、小さな声で呟く。
「おやすみですか? 相沢祐一、二等陸尉」
「――起きてます!!」
フルネームと階級で呼ばれると、彼は瞬時の飛び起きた。
その反動で頭のリインが悲鳴を上げて飛ばされるが、祐一は慌てていてそれにも気付いていない。
陸士108部隊。そこに所属していたときに、立ち回りを徹底的に仕込まれたらしい。
「いや、これはデスね? 昨日徹夜して報告書まとめてたら、ついうっつらうっつらしてしまいまして……ってはやてか」
「はやてかて、これでも直接の上司なんですけど」
「なんですかー……」
飛ばされてまた祐一の頭上までのぼって来たリインに「すまんすまん」と謝って、祐一は机に顎を乗せたままはやてを見る。
『闇の書事件』から早十年。色々あった間柄だ。
このような態度をとったからといって、左遷されることもない。
勿論相手が相手なら即刻辺境行きなのだが。
「つーかお前な、もうちょっと俺にも仕事回せ。一人でどれだけ処理しようとしてるんだよ」
「……って、これもしかして私がやらなあかんやつ!?」
「俺がやっても問題ないなら、ある程度こっちに任せろ。書けないわけじゃないんだからさあ」
突っ伏したままキーボードをリズム良くタイプしていく。
その内容は今回追っている事件がらみのものだが、元々ははやて自身が書くつもりだったものだ。
本局に向けての報告書。確かに誰がやっても事実を書き連ねるだけで問題は無いのだが。
「せやけどこういったのはやっぱ隊長が……」
「やかましい。お前そのうちぶっ倒れるぞ? 一応こちとら副隊長の看板しょってんだ。お前はお前にしか出来ないことをやれ」
「リインもお手伝いしますよー」
「頼りにしてる」
はいです! と元気良く応えて、祐一の頭上でリインフォースも作業を再開する。
……聞き辛い。
自分のために頑張っているのに、「リインにとって、私に相応しい男ってどんな人ー?」とか尋ねたりしてもいいのだろうか。
「――んで、用件は?」
と思っていると、ディスプレイと睨めっこをしたまま、祐一がはやてに問いかけた。
恐らく、自分が切り出しづらいのを承知してのことだろう。
即ちそれは、言いにくいことでもいいから喋れということ。
はやては一つ頷くと、作業を続けるリインに呼びかけた。
「リイン」
「はい。なんですか、はやてちゃん?」
「いきなしで悪いけど、男の人と一緒に暮らすとしたら、どんな人がええ?」
「――一緒に?」
ド直球だが、ヴィータ同様彼女にはこれぐらい具体的な問いかけでないと、返答に困るだろう。
その下で祐一が「?」マークを浮かべているが、目を合わさないことにする。
「……祐一さんがいいです!」
「うおびっくりした。なんでよ?」
「祐一さんが一緒に暮らすってことは、フィオちゃんと一緒に暮らせるってことですから!」
得心がいったように頷く祐一。
自分が選ばれたことへの嬉しさ半分、理由に対する空しさ半分。
そんな複雑な表情で作業を続けている。
相沢祐一。
超近接特化のフロントアタッカーで、クロスレンジの中でも最もリーチが短いながら、S+ランクを所持。
更に特殊技能である【堕天兵装】を使えば、その上を行く能力を持つ魔導師だ。
シグナムの言う「自分より強い」には該当しているし、自分を支えるといった点でも、彼はこの部隊の副隊長として十分すぎる働きをしている。
……でも、どうだろうか?
余りに近すぎる所為で、はやてには彼が恋人になるといった想像がつかない。
あくまで彼は兄たる存在なのだ。
「……そういえば、祐一さんは彼女います?」
鈍い音を立てて祐一がデスクに向けてヘッドバットをきめた。
その反動で頭上のリインがまた落ちるが、今の一言でダメージを受けた祐一はまたも気づかない。
「いや、あのですね? 俺も欲しいとは思うんですがね? ただ悲しいかな恵まれないっていうかね?」
「疑問系で言われても……」
伏せた体を今度は椅子にもたれさせ、祐一は溜息を一つ。
陸士部隊の制服。それの懐に手を入れながら、話を続ける。
「まあ正直、俺みたいな前衛の中の前衛は、誰よりも前に出て、誰よりも傷ついて、誰よりも敵を倒すってのが仕事だからな。当然リスクも高いし下手打つと死んじまう。そういうやつと付き合うのって、結構度胸やら覚悟が必要だからなあ……」
確かにそうだ。
フロントアタッカーは切り込み隊長。その中で最も前に出る祐一の戦闘法は、今でも息を飲むときがある。
それを理解し、かつ絶対に大丈夫だと信頼出来る人間はそういないだろう。
なのはやフェイト、自分は長い付き合いと信頼があるのでそうでもないのだが。
と言ったところで、祐一が懐から小さな箱を取り出したのをはやては見る。
「んで、この前も――」
「じ~~~~~」
「……いや、あの……」
「じ~~~~~~~~」
「………分かった。吸わないから声に出して睨むな」
煙草。英語で言うとシガレット。
数年前から見かけるようになった情景だが、祐一は渋々出した箱とライターを元に戻す。
「なのはといい、フェイトといい、お前といい。俺の楽しみを奪う気かこのヤロー」
「乙女にヤロウ発言はともかくとして。駄目です。煙草なんて百害あって一理なしゆーぐらいなんですから」
いつまた落とされるか分からないと思ったのだろう。
リインフォースは机の端に避難して、同意を示すように頷いていた。
時々隠れて吸っているようだが、見つけ次第止めるよう六課の皆には言ってある。
「あと、お酒ももうチョイ控えるように。最近増えてきてますからね」
「お、お前……紳士のたしなみを二つも奪う気か……」
うぐう、と妙な呻き声を上げ、祐一は撃沈。
どうやら酒と煙草。人間的に駄目であろうこの二つが、彼の活力源だったようである。
諦めたのだろうか、ちょっと涙目になりながら作業を再開する。
「――ところで。この前フィオが新しいテーマパークのチケット貰ったらしいんだけど、いらないか?」
「ああ首都からちょい離れたところにあるゆうやつですか?」
「そ。フリーパスつき入場券が七枚。お前らヴォルケンで休みとって行ってこいよ」
「でも一枚あまるですよ?」
「フィオも連れてってくれ。あいつああいうの好きだから」
「でもフィオ、祐一さんと一緒じゃなきゃ嫌やいいません?」
「……まあそのときは別で買うよ」
そんな風に、三人でガヤガヤと話す情景から、少し離れた先。
心配で見にきていたなのはとフェイトが、隊長室の入り口からその様子を覗いていた。
二人で目をあわせ、頷きあう。
「なのは、私思うんだけど……」
「多分、私も同じこと思ってるかも……」
せーの
((あの二人が付き合えばいいのに……))
因みに後日参加したのは、八神家+祐一、フィオ。
その人数は計七人。
理由は、園内ペット禁止だったから。
その日ひたすら海に向けて犬が雄叫びを上げていたらしいが、みなで無視した。
ザフィーラカワイソス(´・ω・`)