「……ヒカル姉を――倒したい?」
「そうなんだ!」
そう言って俺は、二回りも小さな妹、吹雪に向けて頭を下げた。
小学生に頭を下げるなんて? 俺は勝つためなら、悪魔に魂を売ったり売らなかったりラジバンダリなんだ!
「あいつ、同い年なのに俺のこと『バカ』とか『オマエ』とか言うだろ? ここいらで、力の差をハッキリさせたいんだよ」
「――キミがまだ二段階変身を残しているなら、可能だとも思えますが……」
「現時点でそこまでの戦力差!?」
だが、ここで諦めては恥を忍んだ甲斐がない。それに吹雪は、自分では気づいていないが天才少女なのだ。
確かにフィジカルでヒカルに勝てないことは最早明白。学力でいっても相手の方が優秀だ。
しかし、だからといっていつまでもこの位置で甘んじるわけにはいかないのだ。「下僕」とか言われて悦べる性癖は持ち合わせていないし、男なんて嫌いと言われて凹まないほど出来た人間でもない。
そう、意地だ。意地があるんだ男には!
「頼む、吹雪だけが頼りなんだ。一週間後ヒカルと勝負して、勝つ方法はないか?」
「なぜ一週間後に?」
「…え、えーと。今日はちょっとお腹の調子が……」
……い、言えない! ついカチンときて「決闘だ!」 とか子どもみたいな事言い出したなんて、流石に言えない!
これ以上俺の株を暴落させるわけにはいかない。これは最後の防波堤。ラストプライドなのだ。
「ですが、一週間でヒカル姉の身体能力を上回るのは、不可能ですよ」
「分かってる。だからタイマンはなしだ。そもそも俺は女を殴れん」
悲しいが、俺とヒカルではスクラ○ドのラストバトルどころか、の○太とジャ○アンの構図になることは目に見えている。
……ち、違うぞ? 俺が弱いんじゃなくて、相手が強すぎるだけだからな? 本気出したら大男ぐらい余裕だぜ。格ゲーの話だが。
それに教会の孤児院暮らしをしていたころに、俺はシスターから、女に暴力を振るわないよう教育されているのだ。多分やろうとしても体が硬直してボッコボコにされるのが関の山だろう。
かといって自分の得意分野で勝ったとしても、俺を認めさせることはできない。フェアかつ俺にも勝機がある内容でないと、この戦いには意味がない。
「なるほど。公平でないと、ヒカル姉に認めてもらえない。かといって自分に勝機のある勝負が思いつかなかったということですね」
俺の意図を察してくれたらしく、吹雪は視線を上に向けて思案し始めた。
まだ小学生だというのに、その姿は妙に大人びていて、しかし違和感がまったくない。
あと10年もしたら、この娘は凄い美人になるだろう。そのころまでにちゃんと「お兄ちゃん」になれるよう、俺も頑張らなければ。
気合いを入れ直したところで、吹雪がこちらを向いた。結論に至ったらしい。
さあ教えてくれマイシスター! 俺が勝てる分野って一体――
「ジャンケンなら、或いは……」
「いきなり運要素キタ―――――!」
「二割弱の確率でキミが勝てるかもしれません」
「しかも勝率低! ジャンケンなのに!?」
「これが私の思いつく最善策です」
「最初で最後の策だった! つーか自分のスペックの低さに絶望するわ!」
衝撃だった。そして凹まざるを得なかった。そりゃあと二段階変身しなきゃ勝てねえよ。
ク○ガみたいに電気ショックでもしてもらわなけりゃ、五分でやり合える気がしねえよ。
あ、でも痛いのは嫌だから、できれば宅配便でパワーアップキットを持ってきてもらえたら嬉しいな。
「ですが――この勝率はまだ変動します。ジャンケンとはいえテクニックはあるもの。それを身につければ勝つ確率を上げることもできるでしょう」
「マジでか!」
「……はい」
「あの…頼むから、目を合わせて言ってくれないか……?」
吹雪はこちらを見てくれなかった。
だが、これで多少の光明は見えた。ならば後は彼女の言う“テクニック”を磨くしかあるまい。
しっかし、磨くといってもどうするんだ? 相手の手の動きを見る、ぐらいは俺も知っているが、短期間で動体視力を上げるなんてことは不可能に近いだろう。
それは流石の吹雪も同じようで、思案顔になっていた。
「……では、他の意見も聞いてみましょう」
「……他?」
♡ ♡ ♡ ♡
「――で、なんで私のとこに来るのよ」
「そんなつれないこと言うなよ、ひょうちゅう。お前が好きな『おっ○っと』のヒトデだけ集めてやるからさ」
「変なキャラ付けしないでくれる!? それに誰がひょうちゅうよ!」
「ヒョウ・チュウ☆」
「何でピカ○ュウみたいに言い直したの!? 私は氷柱よ! つ・ら・ら!!」
で、吹雪に連れられてやって来たのが、氷柱の部屋。ここにやってきた日に、壮絶に同居を反対したあげく人を「ちょっと聞いてるの下僕!」……とまあ、腐っても兄に対してまずしない呼び方で敬ってくれている娘だ。
うん、ツンデレなんだ。今はまだツンの時期なんだよきっと。
現実から逃げてるんじゃないぞ! 断じて!
「んでだ、話したとおりヒカルに勝つには、ジャンケンしかないってことになったんだが」
「まあ、下僕とヒカル姉様との実力差だとそうなるわよね。トライ○ガーでビークスパイ○ーに挑むようなもんだし」
「お前年齢偽ってないか!?」
「もしくは軽量化しすぎたVマグ○ムとブ○ッケンG?」
「そこまでいくとマニアックすぎてほとんど置いてけぼりだろ!」
つーか知ってる俺もおかしいけどな!
「私たちだけでは発案までが限界で……勝つために、氷柱姉の知恵を借りたいのです」
「頼むよ氷柱~。お前だけが頼りなんだよ~」
「――へ、へぇ。私だけが……?」
俺は、氷柱がピクリと反応したのを見逃さなかった。俺が単騎で乗り込めば追い出されるのがオチだろうが、妹の頼みとあらば無下にできないのもあるのだろう。
そこまで考えてる俺って、相当外道だよな。こりゃ新時代の神も近いね!
さあいけ俺。恥を捨てて、氷柱を持ち上げ協力を仰ぐんだ!
「お前が頭良いのは知ってるからな! 俺が宿題教わってるぐらいだからな!」
「今の下僕の素敵で無敵な駄目発言はおいといて……」
本当なのですか……、という軽く憐憫の混じった吹雪の視線を、俺は全力で見ないことにした。
しまったよ母さん。俺、恥を捨て去り過ぎたせいで、大事な物をなくしちゃったよ……
「――まあ、いいわ。手伝ってあげる」
「ほ、ほんとか!?」
「下僕をいたぶるのも面白そうだしね。……って、普通に嬉しそうにしないでよっ。別に可哀想だからとか、そういうので手伝うんじゃないんだからねっ?」
「はっはっは、分かってるって。この素敵ツンデレツインテールちゃんめ」
「……今すぐ殴るか、脳を改造してジャンケン必勝マシーンにされるの、どっちがいい?」
照れてるのかよ可愛いやつめ……って思ってたら目がマジだった……。何この娘、おっかねえ。このままだと、コインで遊べるジャンケンマシーンにされかねないぞ。
とにかく、これで我が家の頭脳派ツートップはこちら側についた。例えヒカルが金色の仮面ライダー並のチートさを誇っていても、俺たちの戦略の前には無力っ……! 完璧すぎる布陣だ……!!
「なにこのバカ代表……自分も頭脳派だと思ってるの……?」
「素晴らしい程の――楽観思考ですね」
「ふっふっふ……見てろよヒカル! 最後に笑うのは、この俺だぁ!」
「しかも敗北フラグを自分で立てた!?」
一週間後が楽しみだぜ!
………
……
…
<一週間後>
「どうせ俺なんか……」
「なんかやさぐれてるぞ!?」
もの凄い勢いでヒカルがツッコミをいれてきたが、俺はそれを返すことすら出来ぬほど荒んでいた。
もうパーフェクトもハーモニーもないんだよ……
「おい氷柱、吹雪。お前達何したんだこいつに? ちょっと前まで私に『そうやって優雅に紅茶飲んでいられるのも今のうちだぜげっへっへ……』、とか犯罪者みたいな目で言ってたのに、酷い変わり様だぞ……」
「いや、勝負だからまずメンタル面を鍛えようと思って」
「どう鍛えたらこうなるんだ……」
ああ、苦悩の日々に満ちた特訓が思い出される……
「自転車の鍵に砂を詰めたり――」
「最低だーーー!」
「夕凪にサンタさんなんてホントはいないんだよ、と囁いたりな……」
「この前泣いてたのはお前のせいか! こ、この外道!!」
「何とでも言うがいいさ。俺には、それしか方法がなかったのだから」
「他にもあるだろ!」
向こうでこちらを見ている夕凪の目が、酷く濁っているよ……
あれが俺のやった結果なのだとしたら、天国には行けなさそうだ。
「お兄ちゃん、がんばれー! ……どうしたの、夕凪ちゃん?」
「……ううん。私も、星花ちゃんみたいに無邪気な時期があったなって……」
「ホントにどうしたの!?」
「魔法少女はね…20になったら魔力がなくなっちゃうんだよ……そこから再就職だよ……」
ちくしょう…! ここまで犠牲を払わなけりゃ、ヒカルを倒せないのかよ……!
神様はなんで人間を平等に創ってくれなかったんだ!
「穢れちまった夕凪の為にも……俺は絶対に負けねえ!」
「汚したのはオマエだけどな……」
勝負は三回勝負。二回勝ち越した方が勝者だ。
時刻は既に夜。姉妹達は皆庭で対峙する俺たちを観戦しつつ、食後のデザートを食べている。
……余興感覚なのか……っ。
「さー始まりました今世紀最大の出来レース! 実況は立夏! 解説は観月ちゃんと霙おねーちゃんダヨ!」
「出来レース言われた!?」
「視える……兄者の後ろに、黒い影が……!」
「――オマエの未来は、深淵に満ちている……」
「それはまた別の機会になんとかして!」
おいおい、お先真っ暗じゃねえか。
……いや、よく考えろ。これはあの二人なりの激励!
こう、なんか俺の想像にも及ばない次元で、応援してくれているに違いない!
「弟くーん、頑張ってー!」
「み、海晴さん……。俺、あなたに応援してもらえるなら、全力で勝ちますよ!」
「ちょっとトトカルチョしたらみんなヒカルちゃんに賭けて成立しなかったけど、頑張ってー!」
「海晴さあああああん!!」
何その超アウェー!? 完璧に俺、爪弾き者じゃないか!
つーか、みんなってことは氷柱と吹雪もなのか……もう、誰も信じられない……
「だ、大丈夫かオマエ。また明日にするか?」
「……ヒカル、オマエは良いよなあ」
「余計にやさぐれた!」
もう勝利することしか意味がない。これで例え終わった後、俺の居場所が無かろうとっ。
汚してやる……太陽なんて!
「いくぞ……最初はグー……!!!」
「これほど壮絶なジャンケン初めてだぞ……じゃん・けん――」
「ポガルブッッ!?」
チョキを出した瞬間、俺の視界が真っ暗に。しかも顔面が凄い痛い。殴られたみたいに痛い。
……って本気で殴られてんじゃねーか!?
ヒカルはヒカルで「ふっ。私の先制だな」、とか言って不敵な笑み浮かべてるし!
何これ、これがここの基準なのっ?
「なにすんじゃい! 神父様にも週一回しかぶたれたことないのに……!」
「……なんだ。ジャンケンを模した決闘じゃなかったのか?」
「ハ○ター×ハ○ターかよ!? それだとパー出しても物理的に負けるわ!」
「はぁ…分かったよ。じゃあ第二試合な」
「今の有効なんだな……まあリアルに負けたから反論できないんだが……」
頬が熱もって痛いし熱いし散々だ……。そのうえ、ボケ的にも勝負的にも先手とられたし。
このままいけば、スペック的に不利な俺は分が悪い。良くてあいこ、悪くて負けだ。
吹雪と視線が合う。彼女は真剣な表情になると、一つ頷いた。
ああ、分かってるさ。ここでやらなきゃ、特訓の意味がない!
「ジャン――!」
「――ケン!」
「ポ「超高速破壊拳!!」なんだそれ!?」
チョキを出したヒカルに、俺は口の両端をつり上げた。ふ…まさかこの手で来るとは、流石のこいつも予想だにしなかったようだな。
何しろ俺が出したい手は、グーでもチョキでもパーでもなく、カメ○メ波のポーズだったのだから。
「ジャンケン十三奥義の一つ、超高速破壊拳。マジつえー超つえー、チョキの百億倍つえー技さ」
「何誇らしげに言ってるんだ!? 無いよそんなチート奥義!」
「ははっ、負け惜しみとは品がないな。吹雪が見つけ出したこの奥義、知らないとは言わせないぞ!」
「知らないよ!」
「ともかく、これで一勝一敗。最終決戦というわけだ……」
「しんぱーん!!」
まさか自分が負けるとは思っていなかったのだろう。ふふん、大した自信だ。
振り返って、吹雪に向かってサムズアップ。すると、彼女も応じてくれた。
お前の見つけてくれた勝機、逃さなかったぜ。
まだ納得していないようで、ぶつぶつ言っているヒカルだが、勝負は残り一回。奥義は一度の勝負に連続で使うと、命に関わる。要は自分の力を信じるしかないということだ。
「よしやるぞ。俺が勝ったら約束通り、『お兄ちゃん☆』っと一日呼んでもらうからな」
「してないよそんな約束! ――じゃあ私が勝ったら、一日何でも言うことを聞いてもらうぞ!」
両者は右足を後ろに下げ、深く腰をかがめた。
――集中。相手の一挙手一投足に、全神経を注ぎ込め。二回既に動きを見たのだ、データを元に相手の出す手を予測しろ。
気迫と集中が周囲に伝播したかのように、観戦者の声が止む。
……そして、誰かがツバを飲む音。それと共に両者は動いた。
「「ジャン・ケン――!!」」
♡ ♡ ♡ ♡
もうすぐ2月になる夜の風は、体の芯が冷えるほどに冷たかった。
そんな中、俺は庭に仰向けで寝ころび、星の見えない夜空を見つめて、溜息をつく。
「お疲れ様」
「……海晴姉さん。風邪引きますよ?」
「お互い様でしょ?」
はい、と言って差し出されたのは、湯気の立つココアだった。起きあがるとありがたく頂戴し、一口。
かじかみそうな体に、暖かさが広がっていく。
「それにしても、キミも大変ね。ヒカルちゃんから聞いたわよ? キミに協力して欲しいって言われたって」
「……お喋りさんめ……」
そう悪態をつく俺に、海晴姉さんはコロコロと、楽しそうに笑った。
いつもは陽気なお姉ちゃんだが、こういったときに見せる暖かな優しさは、また別の魅力があると言える。
「……俺、いきなりここに来たじゃないですか。孤児院ってチビ達は結構いたから、小さい子たちと仲良くする自信はあったんですけどね。同年代の女の子だと、正直こっちが困惑するぐらいで……。
でも、みんな受け入れてくれたんですよね。氷柱とか麗は反対してるけど、追い出したりはしないし。だから、こうなんて言うか…優しいみんなに、どう応えられるのかなって考えて。どうしたら、みんなのこともっと知って、仲良くなれるかなって考えてみて」
結局。
「バカみたいな事しか思いつかなかったんですけど」
最後は苦笑だった。我ながら振り返れば、なんと大雑把な計画だったろうか。
俺が何か起こせば、それだけみんなとの交流が増える。特に吹雪は俺がいた場所でも見たことのないタイプだった。
そこでどうするか迷い、ひらめいたと同時にヒカルに協力を仰いだのだ。
結果的に、彼女とはそれなりに仲良くなれたかと思うのだが。
――自己満足かもしれないしなぁ……
正直、そう思うところもある。人の心の動きなんぞ、十五年ぽっちしか生きていない俺には分かるはずもない。
その上吹雪は感情を表に出さないから、余計に心配してしまう。
「……大丈夫よ。キミの気持ちは、きっとあの子にも伝わってるはずだから」
「そうでしょうか?」
「そうよ。なにしろ、私の妹なんだから!」
胸に手を当てて自慢げに語る姿は、いつもの海晴姉さんだった。自信満々な態度に、思わず俺は吹き出してしまう。
なるほど、もの凄い説得力だ。流石十九姉妹の長女と言ったところか。
「それじゃあ、私は戻るから。キミも早くしないと風邪引くわよ?」
「はい。――って、ココア持ってっちまうんですか。まだ飲んでないのに……」
「あら、大丈夫よ。おかわりを持って、来てくれるから」
誰が? という問いは、俺の口から出ることはなかった。
すぐに分かったからだ。
海晴姉さんとすれ違うように、湯気を出したカップを持って、彼女が来てくれたのだから。
「――飲みますか、“兄様”?」
初めて呼ばれた呼び方は、どこか気恥ずかしい。彼女も同じようで、少しだけ頬を赤く染めていた。
だから、俺は照れ隠しの意味も込めて、質問で返してやることにした。
「うんと甘くしてくれたか、吹雪?」
冬の夜は、もう少し長そうだった。
<あとがき>
吹雪可愛い。
ちかごろあんまりギャグやらなかったんで、それ重視で書いてみようと思ったら変な感じにw
キャラに違和感があった場合、それは私のトゥルー力が足らない証拠です。精進せんと!
感想、指摘、できればお願いしますノ